今日も飲まなきゃやってられない

人生の半分ぐらいを終えた女の仕事と日常

ナースのお仕事 〜暗黒編〜 その2

 

地縛霊にいじめを受けていたパートタイマーのお姉さんの話の続きをするわね。

 

まず基本のスペックを紹介するわ。

 

地縛霊/看護師、60代、小柄、この世の全てを恨みまくっているような暗いオーラを放っている

パートさん/看護師、30代後半、美人、小学生の子供がいて、優しい旦那さんがいる。扶養内で働きたいと思っている。

管理者さん/看護師、60代、訪問看護ステーションの偉い人、能力が高く気風は良いがデリカシーがない

 

私が入職したのは5月の中旬、パートさんは4月のはじめから働いていて、年数的には然程変わらなかった。

私はいじめに気づいた時に、同じ看護師だし年齢も近いし、同じパートっていうことで親近感もあったから、

「大丈夫ですか?」

と声をかけてた。

でも、何もできないわよ。私だって働き始めたばかりで、しかも訪問看護ははじめてだったから、分からないことばかりだったもの。まだ正社員のおばさんたち二人がどんな人達かも把握しきれていなかったし。

パートさんは「私、なにか足りないみたいなんです」と苦笑しながら言っていた。

 

訪問看護っていうのは、基本的に一人で利用者さんのお宅にお邪魔して、仕事をしてくるのね。

その仕事内容は、医療的な処置だったり、介護的な例えばお風呂に入れたり、体を拭いたり、そんなことだったり、健康管理とかアドバイスだったり、リハビリ的な、一緒に歩いたりとか、そういうものがあって。

それは帰ってきて上司になにか異常があれば報告はするんだけど、その場で何があったか詳しいことは、本人しかわからないものなの。

だから、パートさんが何故それほど責められてるのか、よく分からなかった。

よく分からないけど、理不尽さは感じていて、私は理不尽さについて苛立ってた。

 

でも、最終的なきっかけは、ある難病の方だったように思う。

難病の方っていうのは経過が長くて、ずっと入院していられないケースが多い。

だから、自宅で生活しているんだけど、その場合介護するのは家族になっちゃうから、訪問介護や、看護を使用してくださる方が最近増えてきたみたいなの。

そのご夫婦はちょっとしたこだわりがあって、私のステーションの看護とリハビリを依頼してくれていた。

そこに行くことになったのはパートさんと、地縛霊と、管理者さん。

私はあまり関わっていなかったわ。その頃、他の末期がんのケースを見たりしていて、私もちょっと大変だったの。

 

最初から、ちょっと変だった。

管理者さんと地縛霊は、旧知の仲でね。

地縛霊が管理者さんに依存していて、管理者さんは地縛霊に対して引け目を感じているような感じがした。

なんでもかんでも二人でやろうとするのね。煙草を吸いに行くのも(煙草を吸ってるのよ……)二人で一緒、小学校の女子トイレかよって思ってた。

 

で、その難病の方のケアがはじまってから数週間。

事務所内での悪口がはじまったの。

 

「やる気ないもん、あの人」

 

そんな心ない言葉からはじまった悪口は、とても聞いていられないものだった。

 

曰く、頑張ろうとしない。

曰く、動こうとしない。

曰く、人の言うことを聞かない。

 

だから、筋力が落ちるのは当たり前なんですって!!

 

いやもう、バカじゃない!?

 

と思いましたよ。

 

だって難病なのよ、頑張っても、筋力は落ちていってしまう病気なのよ。

たしかに、リハビリによって維持できる期間が延びるかもしれない。でもね、筋力は自分の意思に関係なくどんどん落ちていって、どんどんできることが減っていくの。それはどんなに怖いことかって思うわよ。

限りなく死にちかづいていく。もし死を遠ざけようと思えば方法はあるけれど、それは機械をつないで生活をするっていう形で、家族には負担がかかるし、自分も辛い。

怖いでしょう、辛いでしょう、本当に、苦しいでしょう。

 

私は病気じゃないから想像することしかできないけど、

でも、想像するだけでも胸の奥が苦しくなる。私たちには助けることなんてできない、看護師なんて無力なもので、ただお風呂に入るのを手伝わせていただいたり、介護を少しだけ手伝わせていただいたり、お話を聞くことしかできない。

それでも、少しでも楽になっていただけるように支援するのが、訪問看護なのよ。

 

それなのに。

 

あの地縛霊は。

 

「もっと頑張れ」

 

って言っているらしかった。

病気のご本人と、それを支えるご家族にね。

 

 

私はそれは、絶対に言ってはいけない言葉だと思う。